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ハモネプが「大学対抗戦」を行う時代的意義

 「青春アカペラ甲子園 全国ハモネプリーグ2021冬」が2月27日(土)夜9時から放送される。

 

 今回のテーマは「大学対抗戦」。出場条件は「同じ大学(院)の学生で結成したアマチュアグループ」だ。

 本戦に先立ち1月20日に放送されたPR番組では、各大学の注目グループが登場。演奏前には、学生らが通う大学の特色がそれぞれ紹介された。例えば、「国際基督教大学は国際的で個性的な学生が学ぶ」「名古屋大学は東海屈指のアカペラの名門」「九州大学は音響設計学科がある」「広島大学にはオーケストラピットや音響設備完備」「大阪大学はINSPiがアカペラサークルを創出、合宿はストイック」「鹿児島大学は水産学部が盛ん」といった具合だ。

 

 さらに「母校のプライドを掛けたたたかい」「早慶戦」「東大VS京大」など、ここ最近では珍しいほど積極的に、煽りの文言が使われていたのも印象的だった。

 同番組は最初期から「関東VS関西」「ライバル」など、出演者どうしの対立構造を鮮明にすることで番組を盛り上げてきた歴史がある(=「ハモネプの物語」)。まるでハモネプの“原点”を感じさせるような、熱い大会になりそうだ。

 

苦境の中にある大学生

 

 なぜいま、大学対抗戦がテーマなのだろう。

 筆者は「苦境にもかかわらず、スポットライトが当たりにくい大学生を応援しよう」とする意図が込められていると想像する。

 

 昨年夏、「#大学生の日常も大事だ」というハッシュタグが、ツイッター上を駆け巡った。

 学業やサークルに打ち込もうと、希望を胸に抱いて入学した青年たち。しかし現実は、家にこもってオンラインで授業を受け続ける毎日が続く。田舎から上京してきたにも関わらず、友人もできない。アルバイトもできないのに、学費も家賃も請求され続けている。精神的にも経済的にも苦境に立たされるが、メディアでは「大学生が感染を広げている」と、批判のやり玉にすら挙げられている。

 

 大学生はいま、かつてないほど孤独で、苦しい状況に立たされているのだ。

 

 またアカペラにおいても、「ほとんど活動ができていない」という学生が8割にものぼり、対面に限れば9割。実に94.6%のサークルが活動を停止していたという、たいへんショッキングな結果が「ACAPPELLER.JP」のアンケートでわかった(「オンラインサークルACAPPELLER.JP ニューノーマルアカペラプロジェクト(以下、AJPニューノーマルアカペラプロジェクト)」が2020年7月20日〜23日に実施したアンケートを参照)。

 

学生の78.1%が「活動できていない」(ACAPELLER.JPより引用)
学生の78.1%が「活動できていない」(ACAPELLER.JPより引用)

 筆者はこのアンケート結果を知った時、ふたつの思いを胸にいだいた。

 ひとつは、大学生アカペラーへの同情である。筆者もかつて、アカペラを青春に掲げた大学生だった。対面アカペラができない苦しみは、よくわかるつもりだ。

 もうひとつは、「アカペラ文化停滞」への危惧だった。日本におけるアカペラ文化の中心地は、いうまでもなく、大学サークルである。そこがストップすることは、文化全体に大きな影響があるのではないかと考えたのだ。

 

 しかし、少なくともふたつめの危惧は、杞憂であった。

 

 大学生は、リモート技術を駆使し、すばらしいアカペラを作り出してきたのだ。

 

リモートで見えたアカペラの良さ

 

 筆者は現在、ヒューマンビートボックス・ヴォーカルパーカッション研究者である札幌国際短期大学部・河本洋一教授の企画のもと、ボイパやビートボックス、アカペラの知見を深めるセッションを実施している。参加者はボイスパーカッションの先駆者であるKAZZ、JAM(ジャパンアカペラムーブメント)の発足やRAG FAIRで活躍した奥村政佳(おっくん)、ヒューマンビートボックスを日本に広めたAFRA、ヒューマンビートボクサーのすらぷるため(敬称略)だ。

 

 このセッションの中で、「コロナ禍のリモート文化によってアカペラの良さが浮かび上がってきた」というきわめてアクチュアルな話題が交わされた。のちに整理して発表されることと思うが、ここでは私なりの要約を共有したいと思う。

 

 セッションによって浮かび上がってきたアカペラの良さとは、

 ・ほどよい人数構成、音域幅、音量のおかげで、リモートにおいても音源調整が容易

 ・日本におけるアカペラ文化の発展がインターネット文化の発展とともにあり、参画者の基本的なITスキルが高い

 ・調和を基礎とする音楽的特色も影響し、仲間同士の協力体制が根付いている  …などだ。

 

 これらは傾向の話であり、説得力のある証明は難しいかもしれない。しかしいずれにしても、アカペラは「リモート」という新たな武器を獲得したという事実は間違いないたった1年間で、アカペラ―の録音・録画技術、ミキシング技術、SNS上のプロモーション技術は、格段に底上げされた。そしてその中心を担ったのは、ほかでもない大学生であった。

 

リモートアカペラで作られた慶應義塾大学アカペラシンガーズK.O.E.による作品

 

 今回のハモネプは大学生をメインにすべき時代的意義がある。なぜなら、大学生はかつてないほど苦しい1年を過ごし、そこから「リモート」という新たな武器を見出し、新たなアカペラ文化を生み出し、醸成してきたからだ。そして今回「同じ大学(院)の学生で結成したアマチュアグループ」という出場資格を作ったことにも大きな意味がある。このルールによって、コロナ禍で断絶された大学内のコミュニケーションに、ひとつの回路が作り出されたのだ。出場バンドはじつに164組、出場校は75校にものぼる。それぞれの大学で、ハモネプ出場に向けた切磋琢磨がなされ、アカペラを通した友情が育まれたことだろう。

 

 「大学対抗戦」というコンセプトになるにあたり、実際には、コロナ禍におけるインカレバンドの許容が難しかったり、「以前と違うコンセプトに」といった社内的な指示など、さまざまな経緯があったことだろうと想像できる。しかしそのような「大人の事情」をしたり顔で想像するのは、野暮というものだ。それよりも当サイトでは、より前向きで、希望に溢れる想像力を働かせていきたいと思っている(勝手な想像そのものが野暮であることには違いないのだが)。

 

 ハモネプ20周年の節目を迎えた昨夏大会。そして今大会は新たな歴史の第一歩となる。大学生の青春に目が離せない。




「青春アカペラ甲子園 全国ハモネプリーグ2021冬」

2月27日(土)夜9時からフジテレビ系列で放送

 

YouTube【ハモネプチューブ】ではフジテレビアナウンサーの奮闘記など配信中

https://www.youtube.com/channel/UCCHErYc9MQV2sg-wS_4EQuA

 

「全国ハモネプリーグ2020夏」コンピレーションアルバム配信中

https://www.fujitv.co.jp/hamonep/album/index.html

 

その他情報はホームページより

https://www.fujitv.co.jp/hamonep/