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自分の「話し方」がコンプレックスだった

「間(ま)」を生かした空間づくりをしている金沢の鈴木大拙館
「間(ま)」を生かした空間づくりをしている金沢の鈴木大拙館

 

 ずっと長いあいだ、自分の話し方について、コンプレックスを抱いてきました。「君の話し方には“独特の間(ま)”があるね」と、何度も言われてきたからです。

 ぼくが話すときの"間”をあえて文章として表現すると、下記のようになります。いましがた食べた麻婆春雨へのよろこびを表現してみましょう。

 

 「あの…いま…麻婆春雨を…二袋分つく…って…どんぶりいっぱいに食べ…たんだけど…超幸せ…だった…」

 

 文章にしてしまうと、まるで末期の言葉のようですね(こんな遺言をのこして逝けたらそれはそれで幸せかもしれませんが)。

 抑揚も少ないため、発話中になんとも言えない雰囲気が生まれるのを感じています。

 

 ぼくの話し方には、なぜこのような"間(ま)”があるのか。じつは自分なりに、仮説を立てたことがあります。

 ずばり「金沢弁の影響」です。

 

 


言葉と言葉をつなぐ金沢弁の抑揚

 ぼくの故郷は石川県で、母が使う金沢弁の影響をとても強く受けています。

 金沢弁の最大の特徴は、うねるような語尾の抑揚です。冒頭に示した文章を変換すると、下記のようになります。

 

 「あのおぉんねぇいまああぁ、麻婆ぉ春雨をぉんねぇ、二袋分んん、つくってんけどおぉ、どんぶりいっぱいに食べてぇえ、超幸せやってん」

 

 これはけっしておおげさな表現ではありません。金沢弁では、言葉と言葉をつなぐ部分で、抑揚ある音が強烈な存在感を放ち、みごとに「間」をつないでいます。もしかしたら、常に寄せては返しつづける「日本海の波の音」が影響しているのかもしれませんが、よくわかりません。ともかく、ぼくはかつて、このような言い回しを駆使していたのです。

 しかし大学進学に伴って金沢を離れたことで、ぼくは言葉づかいの変化に迫られることになります。多感な青年は「イナカモン」と馬鹿にされることを恐れ、標準語を学ぶことを選びました。そして苦心の末に身につけたのが、金沢弁の語尾にある「抑揚」を限りなくカットする、という方法でした。そして致命的だったのが、カットした空間になにかを補填する必要にまで、頭が回らなかったということです。その空間には静寂が存在するのみ。そんなこんなでぼくの言葉には”独特の間(ま)“が生まれていった…。

 

 この仮説が正しいかどうかは証明しようがありません。いずれにしてもぼくは、この“独特の間(ま)”を身につけてしまいました。そして大きなコンプレックスを抱き続けてきたこともまた、変えようのない事実です。

 

 


間(ま)は人と人の緩衝材

 

 間(ま)をおそれるべきかどうか。そんな積年の悩みにずばり答えてくれるかのような動画と、さいきん出会うことができました。アカペラグループ「INSPi」のリーダー・杉田篤史さんと、「バリュークリエイト」という会社の佐藤明代表による対談です。

 

 動画を紹介する前に、少しだけ杉田さんのご活動について補足をします。杉田さんはINSPiのほかに、株式会社hamo-labo(ハモラボ)の代表取締役という肩書をお持ちです。ハモラボでは、会社や団体を対象に、ハーモニーを奏でてもらうワークショップを実施しています。調和へのプロセスを身体的に体験してもらうことを通して、対人コミュニケーションに役立ててもらおう、という意図があります。杉田さんはこうした考え方を「ハモニケーション」という造語で説明しています。

 動画では現代社会におけるハモニケーションの重要性が語られているほか、「間(ま)」の大切さについても触れられています。

 

 

 動画を私なりに要約しましょう。まず、人の声(や歌声)は「揺れている状態」が自然です。そして「揺れ」こそが、声どうしを緩衝するバッファもしくは遊びの部分となり、ハーモニーにとって重要なものだと説きます。そして、人間関係においても、そうした「揺れ」みたいなものが大切といいます。

 さらに、人の声の「間(ま)」もまたおなじように緩衝の役目として重要だというのが杉田さんの主張です。一方で、最近のYouTubeの動画では、「間(ま)」を限りなくカットしていくのがトレンドです。しかしそれが主流になっていくことにたいして、不安があると吐露しています。

 

 ぼくはこの言葉にたいへん感動し、同時に救われるような思いをしました。ぼくが持つ“独特の間(ま)”は、コミュニケーションの緩衝材になるかもしれない。たしかに思い返してみれば、だれかが言い争っているときにぼくが発言したことで、軋轢が収まった…という経験はいくつかあったように思います。妻にいたっては、ぼくの話し方が好きだと言って、結婚までしてくれました。

 

 なにはともあれ、ぼくたちは「間(ま)」をおそれる必要はないのです。さらにいえば、金沢弁の語尾に見られる素敵なイントネーションを恥じる必要もまた、まったくなかったのです。

 ぼくはまたしても、アカペラからすばらしい人生の教えを得ることができました。ありがとうアカペラ。

 


ハモニケーションセミナー

 

 さて、「ハモニケーション」という素敵な考えを持つ杉田さんは、このほど一般社団法人Vocal Japan主催のもとオンラインセミナーを開講するそうです。音楽ハーモニーからコミュニケーションとチームビルディングについて学ぶ講座。詳細は下記リンクでご確認ください。

 

 「ハモニケーションセミナー」

 日時:3月28日(日)19:00〜21:00

 申込締切:3月25日(木)23:59

 詳細:https://vocaljapan.jp/news/305

 

 

 またこの文章は、ヒューマンビートボックス研究者である河本洋一さんと、「静寂」という共通テーマで書いたものです。

 今回私は「静寂」を「間(ま)」と変換して書きました。河本さんのブログは下記からぜひご覧ください。

 

 「静寂」とは心が創る音風景 https://ameblo.jp/humanbeatboxlab/entry-12657293986.html