ボイスパーカッションの先駆者で防災大学院卒のKAZZと、シンガーソングライターで防災士の石田裕之による、神戸発・防災音楽ユニットBloom Works(ブルームワークス)が3月5日にメジャー初アルバム(EP)を配信リリースした。また3月7日にはアニメ「ピンクの種とリュッくん」をYouTube上で配信開始した。
「ピンクの種とリュッくん」」の主人公は、KAZZ自身を投影した「ボイパおじさん」。相棒「リュッくん」との旅の様子が描かれる。
物語は、主人公が「大きな地震」に罹災するシーンから始まる。苦しみのなか出会った「ピンクの種」を育てると花が開花。「ピンクの花」は優しい歌声を響かせ、多くの人を笑顔にしていった。しかし時が経つに伴い、人々はその歌声のことも、地震のことも、忘れ去っていく…。
アニメはその後「東の果ての大きな地震」のシーンに移る。津波で崩壊した街のなか、「ボイパおじさん」はボランティアに従事。しかしピンクの花はすでにないため、歌うこともままならない。そんなときに出会ったのが、ひとりの女の子と、彼女が差し出した新たな「ピンクの種」だった。女の子に促されるように歌い出すと、歌と笑顔の輪が、徐々に広がっていく…。主人公はこの経験から、ふたたび「防災のメッセージを伝えよう」と旅に出かけることにした。しかしまたしても、人々は、地震を忘れてしまったのだ。
希望を失いかけたとき、ピンクの種が示したのが「スモンは忘れない」という言葉だった。
「スモン」とはインドネシア・シムル島に伝わる伝承歌で、「海の水が引いたとき すぐに逃げなさい」というメッセージが込められている。スマトラ島沖地震の際、現地の多くの人々はこの歌を思い出し、命を守ることができたという。
シムル島に訪れた主人公は、スモンを楽しそうに歌う少女と出会う。その後、島の長(おさ)に改めてスモンを歌ってもらうと、それはなんとも、おどろおどろしい調子だったのだ。同じ歌であるにも関わらず、正反対ともいえる曲調。これにたいして島の長(おさ)は「伝わればそれでいい」と語るのだ。長(おさ)の言葉に呼応するように、ピンクの種はふたたび開花する…。
たとえ形を変えても、メッセージが歌い継がれるように
この物語は、KAZZ自身が罹災した阪神淡路大震災と、瓦礫にまみれた屋台村で歌った経験、そして「防災のメッセージを伝えよう」と奔走した月日を象徴している。しかし、花の歌声が忘れ去られるシーンが示すように、防災のメッセージを伝えることは、一筋縄ではいかなかった。
どうしたら伝えていくことができるのか――。苦しんだのちにKAZZが出会ったのが「スモン」だった。島の長(おさ)が「伝わればそれでいい」と言うように、スモンは時代や環境にあわせて、しなやかに形を変えてきた。それでも、「海の水が引いたとき すぐに逃げなさい」というメッセージだけは、確実に受け継がれてきたのだ。20万人以上の犠牲者を出したスマトラ島沖地震の際、震源地近くであったにもかかわらず、島の大半の人が命を守った事実が、まさにそれを証明している。
そしてBloom Worksがこのほどリリースした新曲「Bloomin‘ 〜笑顔の花咲いた〜」は、スモンの影響によって生まれた。冒頭の「ひとつ揺りかごから ふたつ波が跳ねる みっつ高く高く よっつ身を守って」という歌には、津波から身を守ることの大切さが訴えられている。そして終盤の「種がまた生まれた」という歌詞からは、「たとえこの曲が形を変え、生まれ変わっても、メッセージが歌い継がれていくように」という思いを受け取ることができる。
そして私たちが注目すべきは、このアニメのBGMや主題歌が、ボイスパーカッションによって演奏されていることだ。ボイスパーカッションは当サイトで繰り返し書いているように、環境や場所にあわせ、しなやかに変化させられることが最大の特徴である。あらゆる変化を受け入れつつ、相手に音楽を届けることができる表現なのだ。そして、長年ボイスパーカッションを演奏してきたKAZZ(=ボイパおじさん)だからこそ、スモンと出会うことができ、この曲を生み出せたのだろうと想像することができる。
アニメおよび今回リリースされたアルバムにおいて、KAZZのボイスパーカッションはしなやかさと強さを兼ね備えた音色で響く。たいへんすばらしい演奏なので、ぜひ聴いてほしいと思う。
アルバムは各種サブスクリプションサービス、ワーナーミュージックのページ等から聴くことができる。