ビートボックスをアカペラに落とし込む難しさ
まずは当サイト「ボイパを論考する」の文脈を踏まえたうえで評価したい。
やはりエイトローの演奏は抜群によかった。
なぜならかれらは、ヒューマンビートボックスの文脈で培われた表現手法を、アカペラに落とし込む努力を惜しまなかったからだ。
前大会準優勝でありながら、「挑戦者」としての態度が、エイトローにはあった。
一般的に、ビートボックスの文脈で培われた表現をアカペラに組み込もうとすると、違和が生まれるものだ。
「アンサンブル重視」のアカペラと、「自己表現重視」のビートボックス。その価値観の違いから生ずる軋轢である。身も蓋もない言い方をすると、アカペラにおいて、ボイパはあまり目立とうとしないほうが、全体としては良く聴こえるものなのだ。
なにはともあれ、ビートボックスをアカペラに組み込むためには、相応の計算と技術、バランス感覚が必要である。
テクニックを、ただぶち込めばいいというわけでは、けっしてない。「そのテクニックを、その場所に入れる必然性はあるのか?」…誰にも説明できる背景と説得力がなければならないのだ。
エイトローはその努力を惜しむことなく楽曲を洗練させ、今大会にぶつけてきた。
少なくとも筆者はそう受け取った。
1曲目「One Last Kiss」の魅力
・冒頭のベース・ボイパ・リードの3人構成、そして「出会ってたから」以降でコーラスが混ざっていく一連の流れが、歌詞と相まって説得力がある
・サビ前など曲の展開時に効果的に使われる「フィルター」(歯音と有声音を組み合わせて盛り上がりを生み出す表現)
・間奏部「♪oh oh oh...」で使われるボイパ細かな高音域のアクセント(クリックロール?)
・ベースのまーくんとボイパのジェイくんによるベースのユニゾン(これがたいへんめずらしい)
・間奏部分のばらばらなコーラスラインによるアンサンブル
・曲終盤に見せるスタンダードなコーラス構成
2曲目「群青」の魅力
・冒頭のきわめて複雑なコーラスラインと、それらをまとめ上げて一気に惹き込む魅力的なリードヴォーカル
・「♪悔しい気持ちもただ〜」直前の美しい有声音ボイパのフィルイン
・「♪悔しい気持ちもただ〜」以降に見られるボイパの「ウッ」などの言語音に近いスキャット表現を入れ込んだ4つ打ちビート
・「♪何枚でも〜」以降のユニゾン+無機質なコーラス表現+ジェイくんによるインワードリップベースによる超低音+まーくんによるトラップ・ジッパー等の多様な音表現(ここがマジですごかった)
・「♪好きなものと〜」以降のロングトーンコーラスに見える、「正しくアカペラ的」な表現
ざっと聴いただけでも、これだけ多くの魅力があった。そしておそらく何度も聴くうちに、これ以上のこだわりが浮かび上がってくるものと思う。残念なのは、テレビのスピーカーではこれらの魅力を十分に伝えるのが難しい点だ。
事前放送では芸能人的な扱いをされていたことに勝手に不安を感じていたが、これは杞憂だった。反省したい。かれらは間違いなく「挑戦者」だった。
いい演奏を聴くことができたと思う。
「物語」の魅力
前回のエントリでも書いた通り、今大会では、新型コロナの影響で苦境に立たされる大学生の現状や大学そのものへのクローズアップがほとんどなく、たいへん残念だった。「大学対抗戦」と銘打った大会をこのタイミングで実施するのならば、孤独の中にある大学生がハーモニーによってつながり、気持ちが救われる様子をこそ、詳細に描くべきであろう。
そんな中でも、琉球大学「琉球グルーパーズ」の様子を詳細に描いていたのはよかった。構内にシーサー像が無数にあること、「ハブ注意」の立て看板の真横で歌っている様子、他校との連携が取れず技術習得が難しい現状、そして笑顔溢れるひたむきな演奏の様子。ハモネプの真骨頂を見ることができたと思う。今大会では最も感動した。大学名消失を目前とする大阪市立大学シシーの思いもグッときた。
「アナペラ」もよかった。番組からの指令による出場。前回大会後にSNS上に流れた心ないコメント。プレッシャーをひたむきな練習で乗り越えていく様子。ボイパ・藤井アナの躍動感ある演奏(にもかかわらずかなり安定感があった)。思わずもらい泣きをしてしまいそうだった。
出演者の「物語」を描き、その中に、演奏を位置づけることができる。
それこそが、ハモネプの最大の魅力であろうと、筆者は考えている。
取り急ぎのエントリとなってしまった。今後追記がある(かもしれないしないかもしれない)