――CubiXは今年、20周年を迎えました。その歩みを教えてください。
太田:3人のなかではぼくが最も古くから在籍していますが、いわゆる「創設メンバー」ではなく、結成の経緯については残念ながら語れません。グループ自体は2003年夏にスタートしていて、ぼくは2004年10月に加入しました。06~08年あたりは年間40本ほどのステージに立っていました。ほぼ毎週末、関東を中心に、どこかしらで演奏していた計算です。
――07年には静岡県最大のアカペライベント「静岡あかぺら横丁」にも出演されていましたね。ぼくはちょうどその頃、静岡でアカペラをしており、同イベントにも参加していました。「東京のすごいグループが来てくれた!」とテンション高めに観ていた記憶があります。十数年越しにインタビューさせていただき感慨深さを感じています。
太田:ぼくも、こうした再会はうれしいです。まさに、長く続ける楽しさだと思います。途中でやめてしまう人も多い中、アカペラを続けている人と出会うと親近感も湧きますね。
――静岡あかぺら横丁でCubiXは全曲オリジナル曲を演奏しており、異彩を放っていました。他のアーティストの楽曲のカバーやコピーをするアカペラグループが多い中、オリジナル曲を演奏し始めたのは、どういったきっかけがあったのでしょう。
Mito:ぼくが「Baby Year」というオリジナル曲を勝手に作り、デモ音源を持ち込んで「歌おうよ」と提案しました。CubiXに入る前は2人組の弾き語りミュージシャンをしており、吉祥寺あたりでギターをかき鳴らして歌っていました。その経験もあり、オリジナル曲を作る習慣が身についていたのです。
CubiXでオリジナル曲を歌い始めると、お手本がないゆえの楽しさに気づきました。アレンジも構成も、すべて自分たちの意思で変えていける。1曲もう1曲と、どんどんレパートリーが増えていきました。
「Baby Year」の3声バージョン
Mito:当時、壁の薄い社員寮に住んでいたので、布団の中でギターを鳴らしてMD(ミニディスク)でデモ音源を録音したのを覚えています。
太田:めちゃくちゃくぐもった音だったよね(笑)。
Mitoが新しい風を吹き込んでくれたおかげで、メンバー皆が曲を書くようになり、想いをストレートに表現する楽しさを発見しました。
オリジナル曲は活動の幅を広げるきっかけにもなりました。当時、ライブハウスへの出演の条件には「カバー禁止」があったからです。YouTubeやSNSもなかった時代なので、ライブ以外で演奏曲を発表するにはCDを自分たちで作って販売するしかなかったのですが、オリジナル曲なので著作権の問題もクリアできました。
Ena:オリジナル曲を持っていると、急な事態にも備えやすいといった利点もあります。
結成16年を記念したワンマンライブを行った際、本番当日にメンバーの一人が体調不良で出演できなくなるアクシデントがありました。この日のセットリストは20曲でしたが、急きょ当日にアレンジを5人用に変更し、無事に歌いきることができました。全曲オリジナルだったからできたことだと思います。
太田:カバーやコピーの場合、和音や構成をあまりに変えすぎると、原曲の独自性を大きく損ねてしまいます。楽曲制作者へのリスペクトや知的財産の尊重にも関わる、繊細な問題です。ところが、オリジナル曲であれば、どこをどう変えようと何の問題もありません。なにせ、ぼくたちの曲ですから、ぼくたちの演奏が正解になります。
Mito:アカペラグループの皆さんには、オリジナル曲にもぜひ挑戦し、その魅力を知ってほしいですね。
信頼関係がハーモニーを一層、美しくする
――長く同じグループで活動することの良さを教えてください。
Mito:信頼関係ができているので、安心して演奏ができます。歌声を聴けば調子の良し悪しはなんとなく分かりますし、互いの実力の高さもクセも熟知しているので、わざわざ指摘し合うことはありません。こうした関係性の中で歌うのは心地いいですよ。
Ena:CubiXには使命感やプレッシャーみたいなものはなく、純粋に歌だけを楽しめています。私は加入して12年経ちますが、飽きずに続けられるのは「一緒に歌えてうれしい」と思えるメンバーに恵まれたからだと思っています。
太田:世の中には多くの人がいて、アカペラ奏者も大勢います。そんな中、一緒のグループになったのは奇跡です。MitoやEnaが言ってくれた通り、「出会えたことのありがたみ」をずっと感じ続けるのが、グループを継続していく上で最も大切だと考えています。
活動を終わらせるのは簡単です。しかし、一度解散してしまうと、あとから「再開したい」と願っても叶えることはきっと難しいでしょう。例えば、もしCubiXが解散したとしたら、MitoもEnaも現在とは異なる活動を始めるでしょうし、そちらが優先されるはずです。「昔のようにCubiXをやりなおしたい」とは言えません。
――やや俗な例ですが、恋人をフったあとに「よりを戻したい」と言っても手遅れなのと似ているように思います。たとえ忙しくても、メンバーと出会えた奇跡を大切にして、一回一回のハーモニーを楽しむ重要性がよく分かりました。
――最後に、これからの活動方針や目標について教えてください。
Ena:1分以内のアカペラ演奏をYouTubeの「ショート動画」機能に乗せて届ける取り組みで、100曲アップを目標にしています。最近では、変化を持たせようとゲストボーカルを迎えた動画を作りはじめました。
ゲストボーカルのЯYOSUKEを迎えて撮影した「スノースマイル」
太田:今後はゲストリードに限らず、ゲストコーラス、ゲストベース、ゲストボイパともコラボしていきたいと考えています。
ぼくたち3人がしっかりコーラスをするので、このインタビューをご覧になった方には、歌いたい曲の楽譜を持って、遊びにきてほしいです。
Ena:メンバーが揃わなくて歌えていないグループとも、一緒に演奏できるといいです。私たちと合わせれば6人にも7人にもなって、いろんなパフォーマンスができます。「ぜひいらっしゃい!気持ちよく歌っていってよ!!」という感じです。
太田:また、発信する動画では「リアル感」にこだわっていきたいと考えています。
コロナ禍以降、アカペラの発表の場はYouTubeやSNSが主流となりました。その結果、リズムやピッチ(音程)、音色をしっかりと補正した曲があふれかえるようになりました。事前にレコーディングして編集した演奏に、その場で歌っているようにパフォーマンスをする撮影方法もよく見られます。
そうした表現ならではの良さもありますが、ぼくたちはあえて「マイク一つでの一発録り」にこだわりたいと考えています。
Mito:「SNS疲れ」の一つに「加工疲れ」があるそうです。いわゆる“映え”を狙って写真撮影後にさまざまな加工をするうちに疲れてしまい心が折れる現象ですが、近くアカペラでも似たようなことが起きるのではないかと思っています。つまり、編集に疲れてしまい、アカペラが面白くなくなる。
太田:人が複数人で歌っている以上、ズレるのはあたりまえで、それを歌う側も聴く側も受容する環境をどう作っていくかが大切だと考えます。「ありのまま」を楽しむのは、これからの時代のキーワードでもありますもんね。
Ena:そういった意味では、今年はライブに出て生のパフォーマンスの良さを伝えていきたいです。3人での新たな挑戦に期待していてください。
――形を変えながらも前向きに活動を続けるCubiXの姿に、後輩の一人としてとても勇気づけられました。若いアカペラ奏者が10年後、20年後の自分の姿を描いたときの良いモデルでもあると思います。今日は素晴らしいお話を聞かせていただきありがとうございました。