――まずはアカスピの立ち上げに至るまでの経緯についてお聞きしたいと思います。2009年に駒澤大学アカペラサークル「鳴声刺心」の1期代表となり、「Take It Easy!」を立ち上げました。
藤井隆太(以下、藤井):「鳴声刺心」は、ハモネプ復活(2007年〜、※1)を背景に、ふたたびアカペラが盛り上がっている時期に誕生しました。
当時アカペラ人口はとても増えていましたが、まだまだ東大・京大、阪大、神大、早慶上智、関関同立、などといった有名大学のサークルに実力が集中していました。これらのサークルは歴史があり(※2)、互いの交流も活発です。一方で、地方のサークルや、アカペラとしての歴史の浅い大学サークルは、大雑把に言えば「それぞれ別個に盛り上がっている」という感じがありました。
鳴声刺心は新しくできたばかりなので、当然、いわゆる「アカペラの中心地」からは外れていました。そこでまずは「中心地とつながること」に力を注ぐことになります。
1期の代表になるにあたり、ぼくは「ハモネプに2グループ出場させる」という所信表明を行いました。1グループだけだと「ぽっと出」感がある。2グループ出場すれば、ほんとうにサークルとしての実力があると証明できると考えたのです。「宣言したからにはなんとしても達成しなければならない」というプレッシャーを感じる日々が始まりました(笑)。
鳴声刺心は新設ということで、あたりまえですが先輩がいません。なので、アカペラを教えてくれる人を探すところからスタートしていきした。
ハモネプの監修で有名な犬飼將博さん(※3)や、アカペラ研究室「LET'S A CAPPELLA AGAIN」の細井涼介先生(今では秋元康氏と楽曲制作をするほどの作曲家)(※4)、アカペラグループJARNZΩ(※5)のKeiΩ(岩城慧)さんらにお願いをして、指導していただきました。夜な夜な、アレンジの方法などをメールで尋ねて答えてもらったりなど、感謝してもしきれません。
そのおかげで少しずつ力をつけていきましたが、こんどは「出演できるイベントがない」という問題にぶち当たります。アカペライベントにおいても、歴史のあるサークル同士はつながっていましたが、そのほかの大学は「蚊帳の外」だったのです。
とはいえ、やっぱり実力のあるサークルやグループと一緒のステージに立たないと、上手くならないなという気持ちがありました。そこで「経験と実力のあるグループと、初心者がごちゃ混ぜになる場所」をコンセプトとするイベントを立ち上げることにしました。それが「Take It Easy!」です。
「われわれ雑魚と一緒にアカペラやってください」と頼み込むかたちで(笑)、有名サークルにお願いして回りました。するとみなさん二つ返事で快く「いいよ」と言ってくれた。ほんとうに優しい先輩ばかりでした。イベントは、高田馬場にある「mono」というライブハウスをお借りする形で始めました(※6)。
その後回数を重ねていくことで、コンセプトが少しずつ他のサークルにも知られていきました。それを実感したのが、仙台から「こっちでもイベントを開催してくれませんか」という連絡がきたことです。このあたりから、「全国での開催」という発想が生まれていきます
この間に、「ブーケ」「ラディッシュ」の2グループによって、ずっと目指してきたハモネプ出場を果たすことができました。目標を達成したので、ほんとうは「Take it easy!」を続ける理由はなくなっていたのですが、いつのまにか「全国での開催」という別の目標ができてきたというわけです。
※1…ハモネプリーグはフジテレビ系列「力の限りゴーゴゴー!!」にて2002年9月まで放送後、同番組終了とともに一時休止していたが、2007年9月18日放送のフジテレビ系列の特番「カスペ!」で復活した。
※2…当サイト「アカペラ年表」参照
※3…犬飼將博・・・株式会社こーろころころ代表取締役社長(1998年~)、世界アカペラ連盟日本代表(2003年~)ライブハウス多作代表(2008年~)、アカペラ音楽振興会会長などを歴任。犬飼将博公式サイト(http://www.inukaimasahiro.com/index.html)より引用。
※4…細井涼介・・・作曲・作詞・編曲家。アイドル、モデル・ダンスユニットなどアーティストへ楽曲提供。アカペラプロデューサー。アカペラ研究室「LET’S A CAPPELLA AGAIN」主宰。同プロジェクトにて、企業CMのアカペラアレンジや歌唱を担当。株式会社オースタンスウェブサイト(https://ostance.com/artist/%E7%B4%B0%E4%BA%95%E6%B6%BC%E4%BB%8B/)より引用。
※5…JARNZΩ(じゃーんずΩ)・・・北海道にて結成の男性5人組ボーカルバンド。2008年「青春アカペラ甲子園全国ハモネプリーグ」で優勝後プロ活動を開始。
※6…高田馬場LiveCafe mono・・・今でこそアカペライベントが多数行われることで有名なライブハウスだが、当時アカペラ演奏は珍しく、「Take It Easy!」によって定着していったという。