――AJPはまさに“インターネットの力を使って、より多くの人がアカペラをしやすくなる環境づくり”という、King of Tiny Roomが掲げる理念を体現するような活動をしています。
ここで、組織発足までの経緯についてお聞きしたいと思います。略字「KTR」は、立ち上げメンバーの3人の頭文字をとっているそうですね。
吉田:「K」は私の名前のKeisuke、「R」は代表の齋藤龍からRyu、「T」はもう一人の立ち上げメンバーであるTakuminからそれぞれとりました。3人とも福島大学アカペラサークルRainbow Pumpkin(レインボウ・パンプキン)の同期でした。
就職に伴い、いったんは皆ばらばらになります。ところが、大学卒業から1年ほど経った2014年頃に、龍くんの主導のもと、3人の LINE グループが立ち上がりました。
私たちは学生の頃によく一緒にアカペラの動画を撮っていたのですが、その延長として、再び一緒に演奏して発信していくことがLINEグループの主な目的でした。また、3人とも学生時代にアカペラのアレンジャーとして大量の楽譜を生み出していたため、「使われなくなるのはもったいないので販売してみよう」といった具合に活動が広がっていきました。
とはいえ、当初は起業するつもりはなく、「好きなことをやりつつお小遣いを稼げればいいよね」というくらいの気持ちでした。楽譜に関しては、DLマーケット(※1)というデジタルコンテンツの販売サービスを活用し一曲300円で販売を始めましたが、しばらくはあまり売れませんでした。
これは私の主観ですが、当時は「お金を出してアカペラの楽譜を買う」という習慣がまだ定着していなかったように感じます。とりわけ大学では、サークルの先輩から後輩に引き継がれたり、知り合い同士で融通したりするパターンが多数でした。「お金を使わなくても音楽ができる」というキャッチコピーでアカペラが広まってきた経緯も、少なからず影響していたのかもしれません。
余談ですが――むしろこちらのほうが本質的で重要な話題かもしれませんが――、アレンジ楽譜の販売に関わる著作権の考え方は、大きく分けて2種類あります。
ひとつ目は、楽譜の使用に関する権利です。JASRACなどの団体にお金を払う必要があり、そこはDLマーケットなどの販売会社が代わりに申請をしてくれるようになっています。もうひとつの、楽譜を書き換えられた著作者の心情を守る権利というものが存在します。これを尊重することはアカペラに限らず音楽業界全体の課題でもあり、アレンジャーとしては常に念頭に置いておかなければならないと認識しています。
話を元に戻すと、最初はなかなか売れなかった楽譜は、継続していくうちに少しずつ売り上げが伸びていきました。「楽譜にお金をかけよう」という感覚を持つ奏者が、以前よりも増えてきているのでしょう。
当社では、アレンジを希望する人とアレンジャーさんをつなぐ窓口業務も行っているのですが、最近は労力やクオリティに見合うような金額で依頼していただけるようになってきました。才能のあるアレンジャーさんが、しっかりとした対価を得て良質の楽譜を作り続けていけることは、アカペラ文化全体のメリットでもあります。お金が動く文化づくりのために、KTRが寄与できた部分はあると思います。
あまりお金の話を続けるとイメージがよくないかもしれないのですが(笑)、最後にもうひとつだけ、お金に関する話題を付け加えます。
AJPでは、毎月500円の会費をいただいています。これは当社の利益のためというよりも、むしろ利用者が過ごしやすいスペースをつくるために重要だと考えて設定しました。もしAJPが無料で参加できたとすると、無責任な関わり方をしてサークル内の輪を乱す人が現れないとも限りません。
利用者は、お金を払っているためなにかを得ようと能動的に活動します。KTRも、お金をいただいている以上は何かしらの形で還元しようという思いがあるので、良い意味での緊張感が生まれます。このワンコインのおかげで、AJPはうまく回っているなと感じています。